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2025.12.17

自閉症スペクトラム児の共感発達とポイント

自閉症スペクトラム児の共感発達段階

自閉症スペクトラムのお子さんの共感性は、定型発達のお子さんとは異なる道筋で発達していきます。ここでは、自閉症児特有の共感発達の10段階を、一般保護者向けにわかりやすくまとめました。


はじめに:自閉症児の世界を理解する

自閉症スペクトラムのお子さんにとって、世界は私たちが想像するよりもずっと怖い場所です。

  • 音や光、触覚などの刺激がとても強く感じられる
  • 情報が整理できず、混沌とした世界にいる
  • 何が起こるかわからない恐怖がある

そのため、共感の発達も定型発達とは違う順序・ペースで進みます。でも、必ず発達します。焦らず、お子さんのペースに寄り添うことが大切です。


第1段階:混沌の中にいる時期

この時期のようす

  • 人の顔を見ない、目が合わない
  • 呼んでも反応しない
  • 一人で完結しているように見える
  • 抱っこを嫌がることもある

お子さんの内側で起きていること 

世界のすべてが侵襲的で怖い状態です。
人も物も区別がつかず、あらゆる刺激が押し寄せてきます。
自分を守るために、外界を遮断しているように見えます。

保護者の方へ 

「私を嫌っているのでは」と思わないでください。
怖いから縮こまっているのです。
無理に目を合わせようとせず、お子さんが安心できる距離感を探りましょう。


第2段階:安心の芽生え

この時期のようす

  • 特定の場所や物にこだわる
  • 同じルーティンを好む
  • 親のそばにいることが増える(ただし密着はしない)
  • 大人しくしているが、変化にパニックを起こす

お子さんの内側で起きていること 
「同じ」であることが安心の源です。
予測できることで、ようやく少し世界が怖くなくなります。
こだわり行動は自分を守るための大切な方法です。

保護者の方へ 
こだわりを無理にやめさせないでください。
それはお子さんにとっての安心の杖です。
まずは「この子のそばにいると安心」という感覚を育てることが第一です。


第3段階:不器用な甘えの始まり

この時期のようす

  • 背中からドンと激突してすぐ離れる
  • 近づいてきたかと思うと離れる(接近回避行動)
  • クレーン現象(親の手を使って物を取ろうとする)
  • 親を「道具」のように使う

お子さんの内側で起きていること 
甘えたい気持ちはあるのに、怖くて素直に甘えられません。
「くっつきたい、でも怖い」という葛藤の中にいます。
背中から激突するのは、正面から甘えられないからです。

保護者の方へ 
これは甘えの始まりです。
「道具的に使われている」と悲しくならないでください。
相手の好意をあてにしているからこそ頼んでいるのです。
一瞬の接触を大切にしましょう。


第4段階:「やって」が言える

この時期のようす

  • 「やって」「ちょうだい」などの要求が出る
  • サインや身振りで伝えようとする
  • 親の顔を見て確認することがある
  • 少しずつ落ち着いてくる

お子さんの内側で起きていること 
「この人に頼めば助けてもらえる」という認識が生まれています。
これは大きな進歩です。
まだ会話ではありませんが、人を頼る第一歩です。

保護者の方へ 
「やって」と言えたらすかさず応えましょう。
頼んだら応えてもらえたという成功体験が、人への信頼を育てます。
言葉が出なくてもサインでOKです。

事例:太郎くん(3歳) 
最初は言葉がオウム返しだけでしたが、「やって」を覚えてから
自発的にお願いできるようになりました。
よく笑うようになり、嬉しいときに声を出すようになりました。


第5段階:人の存在に気づく

この時期のようす

  • 親の反応をうかがいながら行動する
  • いたずらをして親の反応を見る
  • 褒められると嬉しそうにする
  • 少しずつ目が合うようになる

お子さんの内側で起きていること 
「この人は自分とは違う存在だ」ということがわかり始めています。
自分と他者の区別(自他の分化)が育ってきた証拠です。

保護者の方へ 
いたずらは「困らせたい」のではなく、あなたの反応を知りたいのです。
大げさに反応してあげましょう。
「見てもらえた」という体験が関係を育てます。


第6段階:やりとりの芽生え

この時期のようす

  • 「やって」→「いいよ」のやりとりができる
  • 簡単な指示に従える
  • 「かして」「ありがとう」が言える
  • 親のそばに避難してくる

お子さんの内側で起きていること 
やりとりには「役割」があることを理解し始めています。
自分が「やって」と言ったら、相手が「いいよ」と返す。
このキャッチボールの感覚が育っています。

保護者の方へ 
会話の練習は日常の中で自然に行いましょう。
「やって」と言えたら「いいよ」と返す。
この繰り返しが会話の基礎になります。

事例:花子さん(小1) 
最初は言葉がなく、座っていられませんでした。
「やって」「いいよ」のやりとりを練習し、2語文が言えるようになりました。
「やって」と言ったら「いいよ」が返ってくることを学び、会話の芽が出てきました。


第7段階:感情を言葉にできる

この時期のようす

  • 「つらい」「かなしい」「くやしい」が言える
  • 「いや」「やめて」が言える
  • パニックが減り、言葉で伝えようとする
  • 癇癪のあと、親に気持ちをわかってもらおうとする

お子さんの内側で起きていること 
自分の中の感情に名前をつけることができるようになっています。
感情を言葉にできると、パニックに頼らなくてよくなります。

保護者の方へ 
感情の言葉を代弁してあげましょう。
「悔しかったね」「悲しいね」と言葉をつけてあげることで、
お子さんは自分の感情を理解します。
叩いてきたときは「つらいね」と受け止めて。

事例:健太くん(小6) 
最初はお願いの言葉が言えませんでした。
8か月後には「つらい」「かなしい」「くやしい」と言えるようになり、
「かして、いいよ、ありがとう」のやりとりができるようになりました。
お母さんは「ようやく会話ができた」と涙を流しました。


第8段階:素直な甘えの表現

この時期のようす

  • 正面から「抱っこ」と言える
  • 困ったとき親のところに来る
  • 「一緒にいて」と言える
  • 甘えたいときに甘える

お子さんの内側で起きていること 
「この人は自分を受け入れてくれる」という信頼が育っています。
怖くて近づけなかった人に、素直に甘えられるようになりました。
これは大きな成長です。

保護者の方へ 
この時期の甘えは全力で受け止めてください。
「もう大きいのに」と思わないで。
自閉症のお子さんは甘えの発達が遅れています。
今が甘えを育てる大切な時期です。

事例:翔太くん(小3) 
最初は母子分離できず、癇癪がひどく、学校に入れませんでした。
4か月後には通学団で登校でき、友達と遊べるようになりました。
今では意見も言え、困ったときは言葉で伝えられます。


第9段階:他者の気持ちを想像する

この時期のようす

  • 相手が怒っている・悲しいがわかる
  • 「ごめんね」が言える
  • 小さい子や困っている人を気にする
  • 相手の反応を見て行動を変える

お子さんの内側で起きていること 
「あの人は今こう感じているのかも」と想像できるようになっています。
自分の経験を基に、相手の気持ちを推測する力が育ってきました。

保護者の方へ 
「あの子は悲しそうだね」「嬉しそうだね」と相手の感情を言葉にして伝えましょう。
お子さんは周囲から学ぶことが苦手なので、言葉で教えることが大切です。


第10段階:社会の中での共感

この時期のようす

  • 状況に合わせて行動を調整できる
  • 相手によって態度を変えられる
  • ルールを守って集団活動ができる
  • 困っている人を助けようとする

お子さんの内側で起きていること 
社会の中での自分の立ち位置がわかり、相手に合わせて行動できるようになっています。
これは長い時間をかけて育った力です。

保護者の方へ 
ここまで来るには長い年月がかかります。
でも、必ずここに辿り着けます。
焦らず、お子さんのペースを信じてください。


定型発達との違い(まとめ)

定型発達自閉症児
生後すぐから人の顔に興味世界が怖くて人を見られない
1歳頃から甘えが始まる甘えの始まりが遅れる(個人差大)
素直に「抱っこ」と言える背中から激突、接近回避など不器用
周囲を見て自然に学ぶ言葉で教えてもらう必要がある
感情を自然に獲得感情の言葉を代弁してもらう必要がある

大切なこと

1. 安心が最優先

すべての発達の基盤は安心です。
お子さんが「ここは安全だ」「この人といると怖くない」と感じられることが、
共感発達の第一歩です。

2. 甘えを育てる

甘えなくして共感は育ちません。不器用な甘えも、背中からの激突も、
すべて甘えの芽です。大切に受け止めてください。

3. 代弁する

お子さんは自分の気持ちを言葉にするのが苦手です。
「悔しいね」「嬉しいね」と代弁してあげることで、感情の理解が進みます。

4. 教える

自閉症のお子さんは周囲を見て自然に学ぶことが苦手です。
社会的な行動は言葉で教える必要があります。
叱るのではなく、正しい方法を教えましょう。

5. 焦らない

杉山先生の研究によれば、自閉症児が母親に素直に甘えるようになるのは
小学校中学年以降のことも珍しくありません。
発達には時間がかかります。でも、必ず発達します。


発達の目安(まとめ表)

段階状態キーワード
1混沌の中にいる目が合わない、一人で完結
2安心の芽生えこだわり、ルーティン
3不器用な甘え背中から激突、接近回避
4「やって」が言える要求、サイン
5人の存在に気づく反応をうかがう、目が合う
6やりとりの芽生えかして・いいよ・ありがとう
7感情を言葉につらい、かなしい、くやしい
8素直な甘え抱っこ、一緒にいて
9他者の気持ちを想像ごめんね、相手を気にする
10社会の中での共感状況に合わせる、助ける

おわりに

自閉症のお子さんの共感発達は、定型発達のお子さんとは道筋が違います
でも、必ず発達します

大切なのは、お子さんの「世界が怖い」という感覚を理解し、安心を与え続けることです。
安心があれば、甘えが育ち、甘えが育てば、相手の気持ちを感じる力が育ちます。

お子さんのペースを信じて、一緒に歩んでいきましょう。


参考文献

  • 修士論文「自閉症児とその母親への子育て支援方法」
  • 土居健郎『甘えの構造』
  • 小林隆児『自閉症の関係発達臨床』
  • 杉山登志郎『発達障害の子どもたち』